社会保険というのは、国民の生活を保障するために設けられた公的な保険制度です。社会保険はいくつかの種類に分類されていて、どれも従業員やその家族達の生活を守るための重要な役割を担っています。今回は、社会人1年目の人も分かりやすく社会保険について解説します。
Contents
社会保険の種類
保険には公的保険(社会保険)と私的保険(民間保険)があって、公的と言われる社会保険には医療保険、介護保険、年金保険、労災保険、雇用保険があります。
社会保険 | 労働保険 | |||
医療保険 | 介護保険 | 年金保険 | 労災保険 | 雇用保険 |
【医療保険】の中には、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度があります。
【年金保険】の中には、国民年金、厚生年金があります。
今回のまとめ解説では、社会保険と労働保険の5つの医療保険、介護保険、年金保険、労災保険、雇用保険について要点をまとめて行きます。
公的医療保険の基本
公的医療保険
公的医療保険には、健康保険、国民健康保険(国保)、後期高齢医療制度があります。
健康保険 | 国民健康保険 | 後期高齢医療制度 |
会社員とその家族 | 自営業者とその家族 | 75歳以上の人 |
保険制度の基本用語
保険者 | 保険制度の運用主体 |
被保険者 | 保険の対象となっている人 |
被扶養者 | 被保険者の扶養家族 一般的に年収130万円未満で被保険者の年収の2分の1未満の人 |
健康保険
健康保険は、会社員である被保険者とその家族の被扶養者に対して、労災保険の給付対象とはならない病気やケガ、死亡、出産について保険給付を行う制度です。
健康保険は、全国健康保険協会が保険者となる全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)と、健康保険組合が保険者となる組合管掌健康保険(組合健保)があります。
保険者 | 被保険者 | |
協会けんぽ | 全国健康保険協会 | 主に中小企業の会社員 |
組合健保 | 健康保険組合 | 主に大企業の会社員 |
保険料は、被保険者の標準報酬月額と標準賞与額に保険料率を掛けて計算し、その金額を会社と被保険者で半分ずつの労使折半で負担します。
健康保険の給付内容
- 医療の給付、家族療養費
- 高額医療費
- 出産育児一時金、家族出産育児一時金
- 出産手当金
- 傷病手当金
- 埋葬料、家族埋葬料
高額医療費
公的医療保険には、様々な保障がありますが、いざと言う時に備えて覚えておきたいのが「高額療養費制度」。高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)とは、医療費が高額になった場合に、一部を払い戻してくれる制度です。
70歳未満の自己負担額の計算は次の通りです。
自己負担額
所得区分 | 自己負担限度額 | |
A | 標準報酬額 83万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000)×1% |
B | 標準報酬額 53万円~79万円以上 | 167,400円+(総医療費-558,000)×1% |
C | 標準報酬額 28万円~50万円以上 | 80,100円+(総医療費-267,000)×1% |
D | 標準報酬額 26万円以下 | 57,600円 |
E | 住民税非課税世帯(低所得者) | 35,400円 |
例えば、次のケースの場合、高額医療費として返金される金額について
出産育児一時金、家族出産育児一時金
健康保険では、加入者の出産時に原則42万円を支給する「出産育児一時金制度」という制度が設けられています。
出産手当金
出産手当金とは、出産のために会社を休み、給与の支払いが受けられなかった場合に出産前の42日間、出産後の56日間のうちで仕事を休んだ日数分の金額が支給される手当金のことをいいます。
1日あたりの支給額=支給開始日以前12ヶ月の各月の標準報酬額を平均した額÷30日×2/3
傷病手当金
病気やケガなどで働けないとき、仕事を休んでいる間の生活を支える目的で、給与の一部にあたる金額が健康保険から支給される制度です。
「傷病手当金」とは病気やけがによる休業中の生活を保障するために設けられた制度で、給料の2/3の金額を最大で1年6ヵ月の間、受け取ることができます。
(支給開始前の過去12ヶ月の各月の標準報酬月額を平均した額)÷ 30日 × 2/3 = 傷病手当金の支給日額
例えば、支給開始日以前12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額が36万円の人が、病気のため連続して10日間仕事を休んだ場合。
- 支給対象期間内の休業日数 10日-3日=7日
- 1日あたり支給額 360,000円÷30日×2/3=8,000円
- 傷病手当金 8,000円×1日=56,000円
埋葬料、家族埋葬料
「埋葬料」は、故人が国民健康保険以外の健康保険の被保険者だった場合、または協会けんぽの加入者だった場合に支給されるお金です。
被保険者の資格を喪失した後であったとしても、3ヶ月以内だった場合、利用することができます。また、被保険者の扶養家族が亡くなった場合「家族埋葬料」が支給されます。
金額は、埋葬料・家族埋葬料は5万円となっています。
健康保険の任意継続被保険者
この制度は、退職のために健康保険の被保険者でなくなった者が、退職の日から20日以内に申し出ることで、退職の日の翌日から最長で2年間、退職時に加入していた健康保険に継続して加入することができる制度です。
任意継続にすると、それまで会社側が負担して支払ってくれていた保険料を、全額を自分で払わないといけなくなるため、保険料は2倍になります。しかしそれでも、国民健康保険に加入することと比べると安いケースもあります。
国民健康保険
国民健康保険は、健康保険や共済組合などの適用を受けない自営業者や未就業など、市区町村に住所があるすべての人を対象とした保険です。
国民健康保険には、都道府県と市区町村が共同で保険者となるものと、国民健康保険組合が保険者となるものがあります。
国民健康保険の給付内容については以下のような特徴があります。
国民健康保険 | 健康保険 | |
療養の給付 | ○ | ○ |
高額療養費 | ○ | ○ |
出産育児一時金 | ○ | ○ |
出産手当金 | ✖ | ○ |
傷病手当金 | ✖ | ○ |
埋葬料 | ○ | ○ |
後期高齢者医療制度
75歳以上患者の一部負担と公費負担を増やし、世代間や保険者間の公平を保つために生まれた健保や国保から独立した制度です。
患者が医療機関等で支払う自己負担分が原則1割(現役並み所得者は3割)になります。
保険料は、各都道府県の後期高齢者医療広域連合で決定され、原則として年金からの天引きで徴収されます。この保険料の徴収は市区町村が行うことになります。
退職者向けの公的医療保険
退職後、再就職をしない場合であっても何かしらの保険には加入しなければなりません。そんな退職者向けの公的医療保険には次の3つがあります。
1:健康保険の任意継続被保険者
【条件】
■健康保険の被保険者期間が継続して2ヵ月以上
■退職日の翌日から20日以内に申請する
【加入条件】
■最長で2年間
【保険料】
■全額自己負担
2:国民健康保険
【手続き】
■退職日の翌日から14日以内に市区町村に申請する
【保険料】
■全額自己負担
3:家族の被扶養者になる
健康保険の被保険者である人の被扶養者となる(保険料の負担なし)
公的介護保険
公的介護保険というのは、40歳以上の人が全員加入して介護保険料を納め、将来的に介護が必要になった時、所定の介護サービスを受けることができる保険制度です。 65歳以上の人は「第1号被保険者」40~64歳の人を「第2号被保険者」と呼びます。
公的介護保険の保険者は市区町村で、主に次の内容があげられます。
第一号被保険者 | 第二号被保険者 | |
対象者 | 65歳以上 | 40歳以上65歳未満 |
保険料 | 市区町村が所得に応じて決定 年額18万円以上の年金を受け取っている人は年金から天引きして納付 (それ以外は個別に納付) |
【健康保険の場合】 協会けんぽの介護保険料率1.73% 【国民健康保険の場合】 前年の所得に応じて決定 |
受給者 | 要介護者、要支援者 |
老化に起因するもの(※特定疾病)によって要介護、要支援者になった場合のみ
※初老期認知症、脳血管疾患などを指しており、交通事で要介護になった場合などは給付の対象外になる。
|
自己負担 | 原則1割(支給限度額を超えた場合、超過分は全額自己負担)
第一号被保険者について合計所得金額が160万円以上(年金収入に換算すると280万円以上)の人は2割負担。特に所得の高い人(合計所得金額が220万円以上、年金所得に換算すると340万円以上)は3割の負担となります。 |
労働災害補償保険(労災保険)
雇用されている立場の会社員の人が、仕事中や通勤の途中で起きた病気、ケガ、障害、あるいは死亡した場合に保険給付を行う制度です。正しくは、労働者災害補償保険と言って、その名のとおり労働者やその遺族の生活を守るための保険です。
もしも通勤の途中で寄り道をした場合で、寄り道をしたあとに正規のルートに戻っていた場合にケガをしても通勤とは認められません。ただし、日常生活を送るにあたって必要な寄り道については、正規ルートに戻ったあとなら通勤と認められます。
会社から家に帰る途中にゴルフの打ちっぱなし練習場に寄った場合は、通勤と認められないが、夕食の買い物をするためにスーパーに寄るのは通勤とみなされます。
業務上における病気、ケガ、障害、死亡などを業務災害、通勤途中における病気、ケガ、障害、死亡などを通勤災害と呼びます。
労災保険は、全ての労働者※(アルバイト、日雇い労働、外国人労働者などを含む)原則として1人以上の労働者を使用する事業所は強制的に加入しなければなりません。また、事業内容ごとに保険料率なども決められていて、その保険料は全額事業主が負担することになります。
※経営者や役員は基本的に労災保険の対象外になります。ただし、使用人兼務役員は労災保険の対象となります。
労働者が病気などで休業した場合、4日目から給付基礎日額の60%が支給されることになります。
特別加入制度
社長や役員、自営業者などは、労働者ではないため労災保険の対象とはなりません。しかし、中小企業主や、個人タクシーや大工などの一人親方などは、任意で加入することが出来ます。この制度を特別加入制度といいます。
雇用保険
雇用保険とは、労働者が失業して所得を失った場合に、生活の安定や再就職の促進を図るために失業給付として一定の金額を支給する保険制度のことです。いわば「仕事がなくなったときの次に備えるための公的保険」のことです。
主な内容は以下の内容になります。
対象者 | 企業で働く労働者 経営者である社長や役員、個人事業主およびその家族は加入することが出来ない |
保険料 | 保険料は事業主と折半ではないが、事業主と労働者で負担 保険料率と負担割合は業種によって異なる |
給付内容 | ■基本手当 ■就職促進給付 ■教育訓練給付 ■雇用継続給付 |
平成28年(2016年)までは65歳になった日以降に新たに雇用保険に加入することはできませんでした。しかし、平成29年(2017年)1月以降は、65歳以上の労働者についても雇用保険の適用対象となりました。
基本手当(給食給付)
一般的に失業保険と呼ばれるもので、基本手当日額は、退職前6ヶ月の賃金の合計を6ヶ月の日数、つまり180日で割って算出します。そしてそのうちの50~80%(60歳~64歳については45%~80)が失業保険として給付されることとなります。
給付日数については、失業の理由(自己都合、倒産、解雇など)や被保険者期間、年齢などによって異なってきます。
失業手当の給付日数
自己都合、定年退職の場合
10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
全年齢 | 90日 | 120日 | 150日 |
倒産、解雇などの場合
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | |
30歳未満 |
90日
|
90日 | 120日 | 180日 | ― |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上45歳未満 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 | |
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
受給要件としては、離職前の2年間に被保険者期間が通算12ヶ月以上あることが必要です。ただし、倒産や解雇などのケースでは、離職前の1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上あれば受給資格を得ることが可能になります。
雇用保険に10年加入していた人が自己都合で退職すると、120日分の失業給付を受けとれるとされていますが、受給資格があるのは退職日の翌日から原則1年なので、退職後、遅くとも8カ月内には求職活動を始めないと120日分をフルに受け取ることができない状況でした。
それが、2019年12月14日の日本経済新聞では「失業給付、資格期間延ばす、病気・育児中、申請で4年も」という記事を出していて、今後、病気や育児などですぐに求職活動ができなくても無理して焦ることなく、まずは資格期間を延長して、自分にあった仕事をみつけるようにしてもいいかもしれないと言われています。
失業給付、受給資格期間延ばす 病気・育児なら4年
会社を退職し、次の仕事を探している間に受け取れる失業給付(基本手当)。雇用保険の加入期間や退職理由によって受給日数が決まっている。受給資格があるのは退職日の翌日から原則1年以内だが、病気や出産などによってすぐに職探しができなければ延長を申請できる。仕組みを見てみよう。
2019/12/15 2:00日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53314440T11C19A2PPD000/
待機期間と給付制限
失業手当を受けるには、移住地のハローワークに離職票を提出して、求職の申込みをする必要があります。この時、待期期間と言ってハローワークに離職票を提出(求職の申し込みを)した日から起算した7日間は支給を受けることが出来ません。
尚、自己都合で退職をした場合は、待期期間の7日に加えて、原則3ヵ月間は支給はされませんこれを給付制限と言います。
就職促進給付の内容
就業促進給付とは、失業者に早期再就職を図るための給付制度になります。基本手当の給付日数が残っている間に再就職が決まると「お祝い金」のような趣旨で就業促進給付の「再就職手当」が支給されることになります。
就職給付金については、アルバイトに就業した場合においても支給されることになり、再就職の給付は「再就職手当」と呼び、アルバイト等に就業した場合は「就業手当」と呼びます。
教育訓練給付
教育訓練給付制度とは、厚生労働省が行っている給付金制度であり定義に関しては以下の内容で記されてます。
労働者や離職者が、自ら費用を負担して、厚生労働大臣が指定する教育訓練講座を受講し修了した場合、本人がその教育訓練施設に支払った経費の一部を支給する雇用保険の給付制度です。
平成26年10月から、教育訓練給付金は、従来の枠組みを引き継いだ「一般教育訓練の教育訓練給付金」と、拡充された「専門実践教育訓練の教育訓練給付金」の2本立てになります。
出典 教育訓練給付制度について|厚生労働省
教育訓練給付には「一般教育訓練給付」と「専門実戦教育訓練給付」の2種類に分かれています。
■給付を受けられる人
雇用保険の被保険者期間が3年以上(初めての受講は1年以上)の被保険者が、教育訓練を受講し修了した場合
■給付額
上限を10万円とし、受講料などの20%相当額
■給付を受けられる人
雇用保険の被保険者期間が3年以上(初めての受講は2年以上)の被保険者が、専門的かつ実践的な教育訓練を受講し修了した場合
■給付額
上限を年間40万円とした受講料の50%相当額を3年間の給付となります。資格を取得の上、就職に繋がった場合はプラス20%(上限年間56万円)まで給付を受けることが出来ます。
■給付を受けられる人
専門実践教育訓練給付金を受講できる人で、45歳未満の離職者
■給付額
受講期間中、雇用保険の基本手当相当額の80%が支給
雇用継続給付
雇用継続給付とは、高齢者や介護・育児をしている人に対して必要な給付を行い、雇用の継続を促していくための制度です。雇用継続給付には、高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付の3種類があります。
被保険者期間が5年以上の60歳以上65歳未満の被保険者で、60歳到達時の賃金月額に比べ75%未満の賃金月額で働いている人に対して各月の賃金の最大15%当総額が支給される。
■高年齢雇用継続給付金
60歳以降も雇用されている人に支給
■高年齢再就職給付金
基本手当を受給後、再就職した場合に支給
満1歳未満の子を養育する為に育児休業を取得した場合、休業前の賃金の67%相当額(6か月経過後は50%相当額)が支給される。
家族を介護するために休業した場合で、一定の条件を満たした場合に支給される。
社会保険に関する要点をまとめ解説しました。最後までお読みいただきありがとうございました。
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